メモをどう分類するか—階層構造からネットワークへ

日頃から学びやアイデアを逐一メモする、私はそういう類の偏執狂である。PCやスマホでひたすらに書き溜めていたのだが、日々増加するメモはエントロピーが増大し手に負えなくなっていた。

思いつくままに書いて分類もせずぶち込んでいたものだから、膨大な数のメモが横並び。次第に過去のメモから目当てのものを探すことが難しくなり、内容の重複も目立っていた。どげんかせんといかん。

重すぎる腰を上げてメモを整理・分類することにしたはいいものの、果たしてこのジャンルにとりとめのないメモたちは、なにをもって分類すれば輝くのだろうか。

試行錯誤①:学問による分類

まず学問での分類を試みた。が、そもそも学問の分類に定義がないらしい。学問には明確な分類法が存在せず、国や地域、教育機関ごとに差異があるのが現状のようだ。

大まかな分野を分けるだけでも以下のようなものがある。
参考:学問の一覧 -Wikipedia

  • 理系/文系
  • 形式科学/自然科学/社会科学/人文科学
  • 基礎科学/応用科学
  • 実学/非実学
  • 経験科学/形式科学

さらにそれぞれの分野に下位分野(物理学、医学、法学など)があるわけだが、どれをどこに入れるかもケースバイケースらしい。

また、学問でメモを分類しようとすると「こうもり問題」が厄介になる。「対象がAにもBにも分類できる場合どうするのか?」という問題で、例えば心理学を用いたマーケティング手法のメモがあったら、このメモは心理学と経営学どちらにいれるのか、となってしまう。

学問同士は多かれ少なかれその領域が部分的に重なり合う存在であり、複雑系科学などのように分野横断性の強いものも多い。この話は○○学、と明確に分類できるものではなさそうだ。

階層(カテゴリー)ではなく任意の数のタグをつけようかとも考えたが、ほとんどのメモが2つ3つとタグ付けすることになってしまい、分類として意味を成さないと感じた。

というわけでメモを学問で分類することは不採用とした。

試行錯誤②:図書分類法による分類

では図書分類法はどうか、これなら強制的に分けられるのではないか。

図書分類法は実際に図書館などで運用されているものなので、世界共通でこそないが明確に定義がある。私は日本十進分類法という日本の図書館で広く使われている図書分類法でメモの分類を試みた。

日本十進分類法はまず10個の第1次区分がある。

  1. 総記
  2. 哲学
  3. 歴史
  4. 社会科学
  5. 自然科学
  6. 技術
  7. 産業
  8. 芸術
  9. 言語
  10. 文学

そしてそれぞれに第2次区分、第3次区分と続いて3桁で表す。メモの分類であれば第2次区分までで十分そうだ。

学問と違いこちらは明確な分類定義があるし、メモの元ネタが本の場合は国立国会図書館サーチで検索すれば既に分類されている。

試してみたところ学問よりはこうもり問題を回避できたが、分類が細分化されすぎてわかりづらかった。また、あくまで図書の分類であって知識の分類としてはしっくりこない箇所も多く、分類はできても役に立たないと判断した。というかいちいち国立国会図書館サーチで調べる労力がえぐすぎる。

というわけでメモを図書分類法で分類することは不採用とした。知識を階層構造で分類しようということ自体に無理を感じてきた。

採用:Zettelkasten(ツェッテルカステン)

結果行きついたのがZettelkastenという情報管理システムである。メモを相互にリンクさせるネットワーク型のメモ術で、私は現在この管理手法を採用している。ちゃぶ台を返すようだが分類しない、という答えである。

Zettelkastenは社会学者のニクラス・ルーマンが実践していたメモ術で、当時は紙のカードにメモして数字を振り、相互にリンクさせていたそうだ。デジタルであればハイパーリンクで可能である。

前述のような階層構造では以下の致命的な欠点があった。

  • こうもり問題
  • 時間経過で分類が変わることがある
  • 作成段階での正確な分類が困難

Zettelkastenのルールはいろいろあるが、私がとくに重要だと思う点は以下の3点。

  1. カード1枚に1アイデア、内容を完結させる
  2. カードは他のカードとリンクさせる
  3. 構造を気にしない

私はSEをやっているのだが、システムに対する考え方を説くときはいつも「建築よりはガーデニングに近い」と謡っている。「設計→開発→完成」ではありません、わが子のように日々慈しみ健やかに「育て続ける」のです、だから予算をよこしなさい、と。

Zettelkastenに出会って、メモも同じなのだと考えるようになった。規則で縛って整理するのではなく、育て続ける。

そのために必要なのは階層構造による分類ではなく、ネットワーク構造によるリンクである。メモの増加とともに増大するエントロピーは、十分なリンクによって対応できる。

メモやノートは事前に設計する構造物ではなく、ノードとリンクの増加によって有機的に成長していくニューラルネットワークのようなもの。Zettelkastenを経て私はそう捉えている。

なお、「構造を気にしない」と書いたが構造を付与することもできる。ZettelkastenにはStructure Noteという仕組みがあり、必要に応じてカードのリンクを集めて構造を作ることができる。構造がなくても有用だが、知識として体系的にとらえ理解するにはやはり構造が欲しくなる場面もあった。

ちなみにZettelkastenは普通のメモアプリでは実現困難だったので、Obsidianというアプリを導入している。 こちらの導入方法はいずれ別の記事にまとめようと思う。 私のObsidian設定はこちらの記事にまとめている。