タネも仕掛けもございます

先日はじめてマカオに行ったのだが、とてもいい国だった。食事は美味しく、親切な人が多く、カジノは勝ったし、英語が通じるし、カジノは勝ったし――とてもいいカジノだった。

そして意外なことに、街にゴミが落ちていないのだ。

マカオは眠らない街である。かき集めたネオンライトは二十四時間勤務、照らし出すのはあふれる観光客。そんなわけだから、富士山よろしくポイ捨て多発でネズミくらい走り回っているのだろう、と予想していた。

大ハズレだった。そんな予想を持ったことすら申し訳ないほどに、マカオはポイ捨てがない。我らがマナー大国日本より少なかったかもしれない。

なぜマカオにいる人達はポイ捨てしないのだろうか。街を賑わわせているのは世界中から来た観光客なので、教育に起因したものではない。なにかしらの「再現可能な仕掛け」があるはずだ。

そんなことを考えながらマカオの街を見回すと、なんとも当たり前の答えがあった。

灰皿付きのゴミ箱が、これでもかと歩道に並んでいる。100mにひとつくらいだろうか、どこに行っても同じゴミ箱なので公共設備なのだと思われる。

なるほど、ポイ捨てする理由がない。実際に私はマカオにいる間、ゴミの処分に一度も困らなかった。また、子供の多い公園などでは灰皿だけ塞がれておりちゃんとしている。

日本の場合、公共のゴミ箱はほとんどなくて、代わりにポイ捨て禁止の張り紙があちこちにある。テロ対策など理由はあるようだが、私は規制よりも仕掛けが好きだ。好ましくない行動の理由を奪い、好ましい行動に誘導する。

例えば「左側を歩いてください」とアナウンスするよりも、左側に矢印を書いた方が快適ではないか。これなら言葉が通じなくたって問題ない。強制よりも誘導、私はそういう仕掛けに目がない。

そん性分だから日頃から仕掛けを探しまわっている。隠れミッキーを探すような感覚だろうか。世の中には意識しなければ気づけないような仕掛けがたくさんある。

最近なるほどと思ったのは「居酒屋の照明は暖色系かつ光量が低い」というものだ。顔の赤みを隠すためらしい。赤くなった顔がはっきり見えてしまう照明では、無意識に飲む量をおさえてしまったり、二次会で選ばれづらくなるそうだ。女性はもちろん、おっさんだって真っ赤な顔をさらすのは恥ずかしいということか。

風が吹けば桶屋が儲かるじみたものもある。「落書きを消すと治安が良くなる」「駅に青い照明をつけると飛び込みが減る」など、なんでそうなるのかすぐにはわからないものもある。こういうのは特に好きだ。

仕事柄、アプリやWebサイトのデザインもよく見る。人の視線は左上から始まり、ZあるいはFを描いて右下に向かう。なので重要なものを左に、補助的なものを右に置くと、ユーザーは見やすいと感じる。これはモニターのような平面に限らず、物理的な商品の陳列でも同じらしい。

仕掛けは誰に気づかれずとも我々を支えてくれている。真の便利さというのは、きっとそういうものなんだろう。

私もいつか、誰にも気づかれずに幸福を生むような、そんな仕掛けを作りたいものだ。


仕掛学―人を動かすアイデアのつくり方


矢野ヒロタ /1988年生まれ。プログラマー、会社員。仕事で培ったWebやスマホアプリの技術を発信すると見せかけてもっぱら妄想を綴っています。よしなに。