HIROTA YANO
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なぜタイムパトロールはドラえもんを逮捕しないのか

「ドラえもん」「野比のび太」を中心とした5名の主犯格からなる未成年者グループが過去改変を常習的に行っていることに疑いの余地はないが、タイムパトロールが彼らを咎めたことはない。親御さんが呼び出された様子もない。

私は二十一世紀在住なので時空間における法の詳細は知らないし、そもそも時空を跨いで法というシステムが成り立つのかも知らない。

しかしタイムパトロールが取り締まりを行っているという事実がある以上、未来において過去改変はおそらく重罪、少なくとも拘束を必要とする対象ではあるのだろう。では、なぜあの未成年者グループは拘束されないのか。ときには感謝さえ受けるのはなぜなのか。

セワシへの社会福祉説

そもそもドラえもんがのび太の時代に住み着いていること自体が過去改変である。そこにお咎めがないということは、ドラえもんは過去改変をある程度許可されているのかもしれない。

忘れられがちだが、ドラえもんがのび太の時代にいるのはセワシ家を救済するためである。セワシ家はのび太のせいで借金漬けであり、ドラえもんはその借金をなくすためにのび太を更生しに来た。彼の目的はけっこうシビアなのだ。

さて、ドラえもんがいた22世紀はすさまじく文明が発達している。豊かで平和な世界として描かれており、おそらくは社会福祉も発達しているはずだ。二十一世紀のような一時的な援助などではなく、貧困を根本解決するような制度が発明されているのかもしれない。

そして政府は、セワシ家にその制度を適用した。それこそが「のび太の更生」という過去改変なのである。

そのためドラえもんは「のび太を更生して借金をなくす」という目的の範囲で、過去改変をある程度許可されているのかもしれない。

――しかし考えてはみたものの、これはあまりにもまわりくどいのではないか?

ひみつ道具があれば、過去改変なんてしなくてもセワシ家を救済するくらい容易いのではないか。また、ドラえもんによる危険なひみつ道具の乱用は、目的を逸脱していると言わざるを得ない。他の可能性を考えて見よう。

タイムパトロールはドラえもんたちを犯罪捜査に利用している説

ドラえもん達は許されてなどいない、れっきとした時間犯罪者である、という前提に立って考えてみよう。

実はタイムパトロールも、はじめはドラえもんたちを捕まえようとしたのかもしれない。しかしドラえもんたちの「無茶な遊び」が、他の凶悪な時間犯罪を摘発することに繋がるとしたら?

こいつらは使える、タイムパトロールはそう判断したのかもしれない。

というのも、時間犯罪の摘発は困難を極めると思うのだ。なんといっても捜査範囲が全時空間である、我々には想像するのも難しい。

時間犯罪の摘発には、ドラえもんたちの犯罪者的な発想が有効なのかもしれない。毒を持って毒を制す、スーサイド・スクワッドのような存在ということだ。

時間犯罪を摘発できるのならばと、タイムパトロールは過去改変や危険なひみつ道具の常習にも目をつむることにしたのかもしれない。大義のためなら、すべてが許されるのだ。

――社会福祉説よりはしっくりくるが、ここで根本的な疑問が出てきた。

そもそも時間犯罪とはなんだろうか? タイムパトロールは一体、なにを取り締まりたいのか?

タイムパトロールの目的は過去を守ることではなく、未来からの略奪を防ぐこと説

ドラえもんたちの行っている過去改変は、タイムパトロールからしたらどうでもいいことなのかもしれない。タイムパトロールの目的、存在理由を考えてみよう。

おそらくタイムマシンを使えば、無力な過去から略奪することは容易だろう。資源でも人でも、過去の敵国からでも奪ってしまえばいい。

しかしそれは同時に、自分たちがさらなる未来人に略奪される可能性をも示唆している。さらなる未来に対し、自分たちはおそらく無力だ。

それでは困ると、タイムマシンを発明した人類は過去からの略奪を禁じたのかもしれない。タイムパトロールを創設し、過去の人々や資源を守ることにしたのである。過去を守るタイムパトロールというシステムを維持すれば、未来においてもタイムパトロールは存在し、未来の過去である自分たちを守ってくれるはず。

ドラえもんたちは過去改変をしているが、たいていは過去の人や資源を守っている。タイムパトロールが自分たちを守る手段として過去を守っているのであれば、ドラえもんたちの過去改変はタイムパトロールの存在理由と一致している。捕まえないというよりは、捕まえる理由がないことになる。

ドラえもんにおいて過去改変は未来に影響を及ぼす描写があるので、過去へ行くという行為は平行世界の生成ではなく元いた時代に直結する過去へ行っていることになる。ということは過去改変を行えば、タイムパトロールもまたその改変された過去から続く未来のタイムパトロールであり、そのタイムパトロールにとっては改変された過去こそが正史である。

だからぶっちゃけ過去改変自体はどうでもいいのかもしれない。防ぎたいのは「時代の侵略」の一点に限るといわけだ。

時代は国家間戦争から時代間戦争へと突入し時代がなくなっていた

時代の侵略をキーワードに考えると、22世紀がやたら平和であることにも別の見方が出てくる。時代の侵略が実現したなら国家間で争っている場合ではない、領土や領空など些末なことになり、新たに領時間ができている。

「未来方向から未確認時空機を確認! 領時間侵犯! 過去方向へ対時ミサイル!」

時空管制塔に警報が鳴り響く。

「迎撃失敗! 東京に着弾!」

東京消滅。と同時に過去改変を実行、東京消滅の事実が消滅。

「未来方向へ旋回!」

領時間侵犯前の敵機を補足、未来方向に向けて対時ミサイルを発射。着弾、敵機消滅。同時に敵機が過去改変を実行、過去方向へ旋回し領時間に突入。

「未来方向から未確認時空機を確認! 領時間侵犯! 過去方向へ対時ミサイル!」

――やり方は天才だが、やっていることは馬鹿である。