スプーン箸の破壊性
二本一対になった棒で食事をつまみ口へ運ぶ道具をご存じだろうか。箸というものだ。
聞いておいてなんだが日本語を読めるあなたはきっとご存じだろう。箸はそれほどに当たり前の存在だということを言いたかった。
その当たり前の箸だが、近いうちに絶滅する可能性がある。箸だけでなくスプーンもフォークも、カトラリー類は軒並み絶滅する。
ただ一つ、こいつを残して。
斉藤工業 オールステンレス スプーン箸 198mm SPH1
スプーンと箸の融合、おそらくはスプーン主体の融合である。スプーンがピッコロ大魔王だとすれば箸は神様、箸はスプーンがスーパーパワーアップをなしとげるためのきっかけにすぎない。
この本当の名もわすれてしまったナメック星人ことスプーン箸との邂逅は居酒屋だった。こいつはさも当たり前のように、おすまし顔で大皿に添えられていた。取り分けに使えということらしい。
はて、トングはどこにいった? 気づかぬ間にトングの時代は終わっていたのか?
最近の時代ってやつは本当に早いななんつってブツブツ言いながらスプーン箸でせっせと料理を取り分け思い知る。
こいつ、トングの代替品に収まる代物じゃあねぇっ……!!
時代の節目ってやつですぜぇ旦那……イノベーションってやつでさぁ。思わず口調が変わるほどのぉ、破壊的イノベーションってやつでさぁ!!
スプーン箸が破壊的イノベーションたる理由を二つ挙げよう。
1.多用性
これ一つで「つまむ」「すくう」「さす」「きる」が可能である。
意外なことにスプーン箸は「さす」「きる」についても中々の腕前なのだ。普通のトングよりも先端が鋭くなっていて、ステーキくらいならさせる。「きる」もハンバーグまでは攻略可能だ。
だが特筆すべきは「すくう」である。
「すくう」を他の操作とまともに両立した食器がかつてあっただろうか。箸もフォークもすくうことは一切できず、食器を持ち変えるしかない。固形食と流動食の間には越えられない壁がある。それが真理だった。しかしスプーン箸は、その真理をぶっ壊す可能性を示したのだ。
2.習得の容易さ
同席した友人たちが当たり前のようにスプーン箸を使いこなしていた。
「それ使ったことあるの?」と聞けば「そういえば初めて見るね」と言う。どうやら初見であることにすら気付いていないようだ。恐ろしいほどのユニバーサル。
箸ならこうはいかない。あれは長い年月をかけて無意識に刷り込み、ようやく使いこなせる代物である。よくぞ数千年も進化を免れてきたものだ、人類は月に降り立ってなお箸の習得を効率化できずにいる。
しかしスプーン箸はまだ完成していない
「すくう」「さす」の能力はまずまずだが「つまむ」能力が弱い。やはりスプーン主体で融合したからか、正直スプーン箸で麺類を食べるのは辛かった。今のスプーン箸のレベルでは箸を絶滅させるには至らないだろう。
しかしこれは「つまむ」さえ改善できれば箸は絶滅するといも言えるのではないか。ラーメンはこれ一本で麺も汁も口に運べるのだから箸もレンゲも不要である。
いつの日か企業努力が実を結び、スプーン箸がラーメンを快適に食べられるレベルに達したとき、本当に箸は絶滅するかもしれない。スプーン箸はそれだけの可能性を秘めているのだ。
以上!
※このお話は初めて見たスプーン箸にテンションが振り切りその場で熱弁したものです。酔っていました。居合わせた友人たちは引いていました。
※スプーン箸は現在、介護用品として人気のようです。